物理学者、ウォール街を往く。

物理学者、ウォール街を往く。―クオンツへの転進

物理学者、ウォール街を往く。―クオンツへの転進

「物理学の相手は神であるが、金融の相手は人間である。」
最後の章で長年の研究の結果、悟りにも近い言葉が書かれています。

まだこの業界のことをかじって間もない僕なんかはいつしか金融を統一する理論が証明されるのではないかと考えていますが、それは有り得ないと断言されています。金融で表現されているモデルと言うものは現象論から導き出される近似値以外の何者でもなく真実からはほど遠いと。なかなか深い意味ですね。

書かれている文章も物理学者を経験されているせいなのか誇張なく、かつ尊厳に満ちた表現の仕方をしているので個人的にはとても好きです。株式と債券の違いのモデルを表現する際に債券を「定期的な金利と元本返済を保障した華麗なる構造」と表現していたのにはゾクゾクきました。債券に”華麗”という表現が当てはまるとは!・・・こんなことを言ってる僕は変ですね。はい。

まぁ、いかにクオンツがトレーダーの方々から疎外されていようと80年代以降の金融取引においてもはや必要不可欠な存在であり、この分野の発展なしには市場の発展も有り得なかったと感じます。そういった意味で、その創世記から携わってきた方が書かれた本書はその歴史を知る意味でもとても興味深いものです。