わたしの名は「紅」

わたしの名は「紅」

わたしの名は「紅」

本年度のノーベル文学賞受賞作家です。村上春樹を抑えての受賞はどんな作家なのかなと思いふと手に取ってみました。よく考えてみるとアラビア世界の方の著書を読んだのはこれが初めてかもしれません。当初は変な日本語訳だなと戸惑って読んでいましたが、実はこれは原書を忠実に訳していった結果なんだろうとなんとなく感じることが出来ました。

更に不思議なことに、そんな日本語訳の中から遠い15,6世紀のアラブ、イスタンブールの世界がとても繊細に描き上がってきます。まるで主題としている細密画のように。そして、描かれている言葉と絵画とがそれ自体が命を持って語りだしていくような読んでいると自然とそんな思いが湧いてきます。形式も独特で、それぞれが1章ずつ各登場人物の主観で語るような形式になっています。そしてそれが連なって物語が進んでいきます。劇としてアレンジしたらいい具合に出来そうですね。

物語自体は600ページを超えるほどもあるので、多少冗長した感もあります。でも、それに値するくらいの圧倒的な世界観とアラビア世界の雰囲気というものを描き出してくれて、なかなかに読み応えのある一冊でした。