永遠の0

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)

零戦乗りであり、終戦間際に特攻で亡くなった自分の祖父がどのような人物であったかを探し求めるというストーリーです。主人公は現代の若者らしく、戦前戦中がどのような時代でなぜ戦争なんてものが行われたのか知識も興味もありません。

そんな若者が、祖父のことを知る戦友から話を聞くうちに当時の状況、戦況の変化、そして祖父の心境について順を追って理解していくことになります。このシークエンスがとても自然で良いですね。特に戦況についてはとてもわかりやすく、パイロットとして配属が変わる度に戦局の転換期である戦場に遭遇しているので、状況の変化がわかりやすいです。パールハーバーから始まる初戦の勢いに乗った戦いと、ミッドウェー以降の敗戦の連続の重苦しさ。それでも何より、ゼロ戦という希代の名機を駆っての空戦を描く様はとても鮮やかで、読んでいてとてもその当時の情景が目に浮かんできます。

時勢に交えた官僚批判、新聞社批判も正にその通りだと感じました。彼らの思考に対して、変に今の視点から考えるのではなく、当時の状況からなぜそのような行動を取ったかがわかって納得感があります。

祖父が神業に近い程戦闘機の操縦が上手かったり、若干荒唐無稽な点が見受けられる点もありますが、何よりデビュー作でこれほど読ませる小説を描くとは素晴らしいですね。なぜ祖父は特攻という死を選ばざるを得なかったのか。涙なしには読めませんでしたが、なぜか読了感は爽やかでした。