ウォール街の物理学者

ウォール街の物理学者

ウォール街の物理学者

今までも似たような本はありました。例えば「物理学者、ウォール街を往く」「クオンツ」など。で、これらの本を読んでいれば本書は読まなくても良いかと思います。

著者は先のリーマンショック時にはまだ大学院生だったようです。それでいて本書のように一冊書き上げるのは凄いことだとは思うのですが、やはりなんだか記述に甘さが感じられます。イントロでクオンツヘッジファンドであるルネッサンステクノロジーズについて、壮大に煽っていながら、その中身について全く触れることなく終えてしまっていることにはビックリしました。どれだけ凄いことやっているのか期待しながら読み進めていたのに。結論を端的に言うと、現代の経済や金融は初歩的な物理学や数学の知識で応用出来て、今後ももっと研究が進めばもっといろんな分野で応用出来ますよっていうバラ色の夢が語られているだけな気がします。

そんなこと知っている人は知っているし、本書で描かれているビッグイシューであるフラクタルの経済への応用だって僕ですら2005、6年くらいには知っていました。残念ながらその物理学的知識が及びませんでしたが。しかもリーマンショックを得た今、そんな話はあまり流行らないような気がします。多分嫌悪感の方が強いんじゃないかな。

本当に物理的な記述で経済や金融を表現出来たとして、そのことに対するインパクトに対してきちんと考慮出来ていなければ、それが正しくてももはや評価されないような気がします。そうでないならばシタデルのように極秘にこっそり稼いでいれば良いのですよ。