皇帝フリードリッヒ二世の生涯

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 下

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 下

昔から塩野さんの著作が好きでした。なぜかといえば歴史上の人物に対する著述が、とても愛に満ちていて深くその人物を理解していることが感じられるからでした。人物を愛するとは理解することとイコールなのかなとも思ったものです。

そんな塩野さんが以前、とても書きたいとっておきの人物がいるとどこかに書いていました。それは誰なんだろうと思っていましたが、毎年出る著作を観る限り「今年のではないな」と思いつつ、その著作は実現されるのだろうか(塩野さんも御歳ですからねぇ・・・)と訝しんでいました。そして漸く本書が出て、これがその人物だったのかと明らかになったわけです。ちなみにその辺の下りは本書の冒頭にも記載されています。

本書の主人公である、皇帝フリードリッヒ2世。まだどっぷり中世であった時代に突如現れた開明的な封建領主です。日本で言えば、鎌倉時代織田信長が現れちゃったようなものでしょうか。幼くして王位と皇帝の座を継承し(しかも自力で!)、普く宗教が全ての人間の生活規範を縛っていた時代に、法律の力を見出してそれを活用するとは。十字軍も戦いなしに交渉のみにてエルサレムを解放してしまいます。

しかしその反面、ローマ法王とは敵対してしまいます。正にこれこそが彼が背負った重荷といえるでしょうか。正に開明的な領主である人物にとって、中世は宗教の帷がまだ重くのしかかっていた時代でした。彼は素晴らしい組織を作り上げますが、なにせ多勢に無勢、敵には変わりはいくらでも出て来ますが、彼の能力は彼一人にしか与えられなかったのです。突然の死も全てを無に帰してしまうには十分でした。残酷なほど。

確か以前塩野さんが言及されていた際に、その人物の表情を描いてみたいと述べていたと記憶しています。それが全て実現されたかはわかりませんが、少なくとも開明的な主人公のパワフルでエネルギッシュな人生はとても明快に伝わって来ました。