どこかでこの本の書評を見て、何と無く興味持ったので読んでみました。書かれたのが昭和30年代、もう50年以上も前なのですね。とても興味深い本ではありましたが、今後読まれるということがどんどん少なくなり、歴史に埋没していくような気がしてなりません。きっとそんな本が世の中たくさんあるのでしょう。著作権など言ってないで、そのような本がもっと広く読まれるようになれば良いのにと思います。電子書籍である青空文庫がその役割を果たしてくれると思うのですが。
物語はある一家の個々の独白が章として成っており、それらがまとまって一つの物語を紡ぎ出しています。この独白形式が、初めは取っつきにくかったのですが、慣れてしまうとスイスイと読めてしまいます。そしてその世界観に従って自分の思考も流れて行くのです。この50代になった男の淡々とした心境が、やがて来るであろう自分の身につまされるのです。そして、過去の思い出に浸されるのです。
終戦後、死は今よりももっと身近だったのですね。特に幼な子の死は。死と、それに対比する生と。そして愛が本書のテーマです。しかし本書で書かれている悩みはどれも純粋で、今の時代からすると、そんなことで、と思う事もしばしあります。倫理観の問題でもあるのですけどね。 この内容がまた、昔読んだ本に似ていて、またそれを思い出させるのです。そして、自分にとって、愛とはなんであったのかを。