ノモンハンの夏

 

ノモンハンの夏 (文春文庫)

ノモンハンの夏 (文春文庫)

 

 今年の夏はノモンハンの本を読んで見ることにしました。今まで完全なる負け戦と言われたノモンハンの戦いは何となく避けていたのですが、どんな戦いだったのか知りたく手に取ってみました。

 

本書で何が良いかと言えばノモンハンの戦いを世界史的立場から俯瞰出来る点にあります。日独伊三国同盟の交渉から独ソ不可侵条約の駆け引きまで、ノモンハンの戦いが発生した状況がとてもわかりやすいです。日本側は関東軍参謀の火遊び、ソ連側はスターリンの明確な日本への牽制として戦いを始めてる時点で意気込みが違うわけです。そして明確に戦いの引き際と外交交渉とをギリギリのラインで見極めているのです。日本の将校は戦争が商売とはよく言ったものです。独ソ不可侵条約を結ばれた時点で、日本は三国同盟を結ばずに他の選択肢もあったように思えたのですが、それを選ばずにミスミス戦争に突入して行ったのは、商売繁盛を願った陸軍の不明によるものであることは間違いないですね。

そして、そんなものに付き合わされて死んでいった人達こそ報われないです。完敗という印象でしたが、前半は意外にも互角とも言える戦いをしていたわけです。それで油断し手酷い敗北を喫したのが後半。しかしやはり現場の兵達の優秀さが素晴らしく、参謀がクソだという従来の定説を改めて思い直した次第です。

 

何度か記されてますが、天皇陛下は明確に陸軍の専横について苦言を述べられており、戦争には常に反対の立場を取られていたとのこと。お言葉がいくつか掲載されていますが、本当にご明察といった感の鋭い状況判断です。天皇ヒトラームッソリーニなどと並んで戦犯だと挙げられる方がいますが、もし日本がそのような専制体制でそのトップが天皇であったならばあのような戦争は起きなかったのだろうと思われます。結局「神輿は軽い方が良い」式の日本の組織の在り方の問題なのですね。そしてその中心にいた人達は結局責任を取っていないというのが問題なのです。例えばスターリンが日本のトップだったら世界を敵に回すようなあの馬鹿な戦争は起こさなかったんだろうなぁと思ってしまいました。

 

表紙には昔どこかで見たようなノモンハンの戦いの写真が載っています。あの見渡す限りの草原で戦い散っていった人達のことを多少なりとも知っておくことが出来て良かったです。