乱

  • 作者:綱淵 謙錠
  • 発売日: 1996/12/01
  • メディア: 単行本
 

 戊辰の役を幕府側の視点から描いた一冊です。しかも幕府お雇いでフランスから砲術指南のために来た若手士官が実際に五稜郭まで行ったという実話を元にしています。リアル「ラストサムライ」ですね。上下2段組の700ページで読み終わるのに1ヶ月以上かかりました。それもそのはず本書は10年越しの労作ですが、残念なことに途中で筆者が逝去されてしまったので一番のクライマックスである五稜郭の戦いの前で終わってしまってるのです。これは筆者も心残りだったでしょう。そういえば足掛け数十年の幕末ギャグ漫画「風雲児たち」もまだ生麦事件辺りでしたね。こちらもきっと描き切ることなく途中で終わってしまいそうな勢いです。

 

二つの作品に共通するのは膨大な資料を元にした考証に多大な労力をかけている点です。本書でも色々な資料を元に、整合性を照らし合わせてチェックして誤認の有無を確認して、間違いがあれば筆者の推論をまとめて一つづつ史実の流れを描き出して行きます。それは本当に緻密な作業で正確な日付まで間違いないか度々検証されてます。

 

幕末というのは色んな出来事が多発的に発生し、それらが相互に影響を与えながら行くので描く方も大変だけども腕の見せ所であり、それが面白いところでもあるのでしょう。本書は幕府側の視点から多くを描いているのですが、慶喜が幕府の影響力を保とうと苦労をしながら最終的に薩長の勢いに飲まれて力を失っていく様が刻々と描かれています。一時は盛り返し、勢力争いに勝ったかのように思えたのですが、(ちょっとその原因のところは明確ではなかったですが)あっという間に形勢を覆されてしまいます。そして最後が鳥羽伏見の戦い。ここがやはり水戸史学のお膝下で育った慶喜の限界であったのかもしれません。

 

本書のポイントである、仏士官ブリュネはデッサンが非常に上手で、本書でもそれを辿りながら話を進めています。いくつかのデッサンが掲載されてますがもっと多く掲載して欲しかったですね。なにせ本人が活躍する場である五稜郭の戦いまで辿り着けなかったのですから、アピールポイントがないまま終わってしまったのは重ね重ね残念なところでした。ただ本書のことはネットの記事で知ったのですが、きっと自分の知らない素晴らしい著作がきっとまだいっぱい埋れていることでしょう。本書のことを知ることが出来て本当に良かったです。