- 作者: 島崎藤村
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/08/20
- メディア: 文庫
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そもそも、この「夜明け前」を読み出したのは大した理由というものもなく、ただなんとなく日本の文学で読んでいないものを、かつなんとなく頭に残っていたタイトルだったためでした。
実際に読んだ後、いろんな書評を読んでみると日本近代文学の代表的一冊などと書かれていたりします。納得の評価だと感じました。それは単なる私小説を超えて、日本が明治維新という近代化をどのように成し得て来たのかという一旦が、表れていると感じます。
また、個人的にはそんな明治の物語という話よりも、実は別の側面として、ある理想主義者の一生とでも云うべき物語にとても惹かれました。若い頃より国学を愛した主人公が、正に働き盛りの青年時代に、王政復古が起きるわけです。時代を感じ、新しい時代の到来を、理想的な社会の建設を待ち焦がれるわけです。しかし彼は生まれながらの家という封建時代の掟によってその動きに参加することが出来ないでいる。ここまでが第一部の流れだったんですね。そして、第二部では明治になり、その封建時代の掟というものが次々に廃止されていく。最後には父という、自分にそう生きることを望んでいた存在も亡くなっていく。漸く自分がやりたい生き方を実践出来るのだと。彼はそのために様々な行いをします。しかし、その多くが上手くいかない。裏目にでる。しかも自分が信じた新しい時代というものが、全く違った方向へ傾きつつあるのを肌で感じるのです。その絶望。最後は悲しい結末です。
若年の熱き理想への思いと、晩年の夢破れた失望の思い。男ならば何かしらに夢と意義を感じて大人になっていくと思うのですが、大抵はそこに大きな挫折があるわけです。そこで何かに折り合いをつけて生きるのか、それともその夢と共に殉じるのか。とても考えさせられた一冊でした。