リーマンショック・コンフィデンシャル

リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたち

リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたち

リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下) 倒れゆくウォール街の巨人

リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下) 倒れゆくウォール街の巨人

もはや歴史上の出来事になった感さえあるリーマンショックのドキュメンタリーです。あの時、正確にはベアスターンズが破綻間際に買収されてから、TARNによる公的資金注入が決まるまで、実際ワシントンとウォールストリートで何が行われていて、どんな議論が巻き起こっていたのか、をこれほど詳細に綴ったものはそうないでしょう。あまりに詳しく、会話が鮮やかに再現されているので、本当にその場にいるような感じさえしてきます。

上巻はベアスターンズ買収から、リーマンをどのように救済するかという悪戦苦闘の物語です。副題にあるとおり、徐々に追詰められていく切迫感がひしひしと伝わってきます。でも残念ながら”貪欲”と呼ばれたファルドCEOがあれほどまでに最後まで欲をかかなければ、リーマンは救われていたんだろうなっという気がします。自分が育てた会社という気持ちが強く、過去に何度も危機を乗り越えた自負があったのでしょう。それが大きな間違いで全てを失う元となろうとは。

下巻はリーマンの倒産と、それがもたらすウォール街全体の危機についてです。初めて知りましたが、あの時倒産の危機にあったのは何もリーマンだけではなかったのですね。津波が飲み込む順番が、資本の安定度と規模に応じて順々にやって来ていただけの話です。初めのベアスターンズは規模が小さいために救済買収を取れましたが、リーマンはなんらかの手を差延べるには、大きすぎてかつ資産の劣化が激しすぎたというだけなのですね。本当にもう少し早く手を打っていればと思いましたよ。

そして、リーマンが倒れた後、荒れ狂う津波は次々とウォール街を飲み込んで行きます。メリルリンチはすんでの所でバンカメに買収されました。その次に狙われたモルガンスタンレー三菱UFJの資金提供により救われました。本当に絶対絶命のところだったのですよ。もっと上手くやればよかったんじゃないかと思うぐらい、あっさりと金を出してしまって本書でも出る幕は少ないですが、三菱UFJが果たした役割は非常に大きかったのだと感じました。だって他に救うところがなかったのですから。

その後、あまりに資産の劣化が激しすぎて、かつマーケットに対するインパクトの強すぎるためAIGは国有化され、最後のゴールドマンも遂に投資銀行の名を捨て、商業銀行となって何とか難を逃れるのです。

そう、もはや投資銀行の時代ではないのかもしれません。そして、これからは数多くのファンドがますます跳梁跋扈していくのかも。しかも、それらに対する規制というものは現在全くされていません。昨今低金利かつ量的緩和が当たり前のようになってきた中で、その行く先は個人や企業ではなく、こういったファンドが主流になってきつつあります。これらのファンドがまた更に高度で誰も理解出来ないような取引を繰り広げ、リーマンショック以上の危機を作り出さないように監視すべきなのではないかと考えています。

この本は同時に、あの危機で銀行経営者や政府・連銀関係者がどのように対応したかの記録でもあります。特にニューヨーク連銀のガイトナー財務省もポールソンの積極的かつ献身的な活動には敬意を表せざるを得ません。その割にはヘリコプター・ベンさんはあまり出てきませんでしたね。日本を批判してた割には、しっかりやってもらいたいものです。