現代の金融政策

現代の金融政策―理論と実際

現代の金融政策―理論と実際

日銀総裁白川氏の著書。簡潔明快な文章ながらその内容に、なかなか読み終わるのに時間がかかりました。特にテクニカルな実務よりの内容など、半分ちんぷんかんぷんに読んでいました。

この本が書かれた当初は氏が日銀から京大に転出して、今後は研究教育に励もうとされていた時期でした。当然、よもや自分が日銀総裁になるなどとは夢にも思っていなかったことでしょう。これから学者として研究・教育の分野で歩んでいくまず第一歩として、中央銀行が取るべき政策について詳細に綴っております。正に教科書。日銀勤務の方は当然目を通しておくべき一冊で、自分が行員であれば何度も読み返したくなるような内容です。

面白いのは学術的な見解が明らかな金融政策が、現在行われている政策と必ずしも合致していない点ですね。特に最近の日銀の動向は正にこの教科書に載っている内容が必ずしも教科書通りに行えないということを証明しているかのようです。時折見かける苦渋の決断ともいうべき白川氏の表情に、その本心が表れているようです。この点は、為替介入とそれに伴う非不胎化やゼロ金利政策・量的金融緩和政策など、リアルタイムで実施される日銀の動きと照らしあわして読むことが出来て面白かったです。

特に勧めたいのはインフレターゲットなどを日銀に行わせようとしている人達です。そもそも日銀の役割として、景気の良し悪しは対象外とあるということをまず理解すべきですね。日銀の役割とは通貨と金融システムの安定にあるわけで、その目的は日銀法に明記されているわけです。当然目的外のことを実施しようとする組織などないでしょう。景気の動向にまで責任を負わすというのは、法律の改定を伴うと共に政府の役割まで放棄するものではないかと感じています。金融政策というものは口先だけではなく、確実に市場を誘導していく技術が伴わないと意味がないという記述にはシビレました。

いずれにしても、その取り上げられているトピックも最近の動向を反映しており興味深いものです。伝統的な経済学だけでは対応出来ないのが、世界の最先端を行く日本なのですから。これからも頑張っていって欲しいものです。