愚者の黄金

愚者の黄金

愚者の黄金

再び金融危機に関しての一冊です。今回はこの危機をもたらした金融技術、とりわけ証券化をベースに発展したデリバティブが欧米を中心とした金融界に何をもたらし、破滅に向かわせたのかを明らかにしてくれます。ひところは日本の銀行もやれこれからは証券化などと言っておりましたが、今ではそんなこともあまり聞かれなくなりましたね。

始まりは1994年のJPモルガン。もともとはSWAPチームが新しい商品を考え出そうとして、クレジットリスクに目を付けたのが発端だとか。なんだか科学の発展の流れにも似たものを感じました。確かにCDOの原型をモルガンのチームが考え出したのは間違いないでしょうが、もしこのチームがCDOを作り出していなかったとしても、きっと別のグループがCDOを作り出していたのは間違いないでしょう。でもこのJPモルガンのチームが優れていたのは、住宅ローンをCDOにするのはリスクが大きすぎると手を出さなかったことです。他の銀行がこれで大もうけをしていた時代でもなんとか踏み止まっていたのは賞賛に値します。これは経営者であるダイモン氏の判断に因るところも大だと感じます。本書でも優れた経営者っぷりを様々な局面で見せてくれます。

筆者はもともとバブル崩壊期の日本に駐在していたこともあるので、それがどのような経路を辿ったかということをよく知っているのです。リーマンショックが起きるまで、欧米の銀行・監督官庁はあの頃の日本とは全く異なるという考えでいたわけですが、蓋を開けてみれば全く同じだけだったわけです。まだ日本は世界に影響を与えないように頑張っただけマシですね。処理方法に批判が絶えませんでしたが。今では世界共通となった中央銀行の対処方法も結局あの頃の日銀と同じです。

あれから2年余りが経ち、銀行の実際のバランスシートはどうなってるんでしょうね。SIVなんか使ってわからなくしているのでなんとも言えません。FRBに集積されたクズ債が実際いくらになるのかも。今後はなんらかの規制が必要になるのだとは思いますが、なかなかすんなりとはいかないでしょうね。既にコモディティや一部のIPO株などでバブル化が起きているみたいですし、愚者の黄金の種は尽きなさそうです。