悼む人

悼む人

悼む人

少し前にベストセラーで人気だった小説です。読み始め冒頭からグッと来ました。素晴らしい導入です。身近に親しい人を亡くした経験のある人だったら同じ思いをするんじゃないかなぁって気がします。

人の死というのは時と共に移ろい、やがて忘れられてしまうものです。如何に大切な人であったとしても、ずっと忘れずに生きて行くというのはなかなか難しいことで、そこに人間の悲しさを感じてしまうことが往々にしてあります。ましてや他人であれば、あっという間に何事もなかったかのように扱われてしまいます。例えそれが世間を騒がすような事件であったとしても。

この本の主人公はそれに耐えきれなくて、見も知らない人々を”悼み”を続けて全国を巡ります。この本のすごいところはそんな変わった人を伝説のような形で神格化しないで、普通の生い立ちを持った普通の人間として描いていることです。そうすることによって、彼のその風変わりな営みがより具体性を帯びた存在として、表現されているのです。

”悼む”というものは人間独自のものです。動物はしないですね。そんな人間独特の感情に焦点を当てた本書は珍しくも面白い一冊となっています。ちょっと終わり方が微妙ではありますが。