レッド・ルーレット

 

2000年代中国の発展の波にうまく乗り、活躍した実業家の告白です。正直あまり期待しないで読み始めたのですが、本書の内容の赤裸々さと著者の処女作とは思えない、文章の巧みさのお陰でとても興味深く読ませて頂きました。

 

時代は2000年代の中国は特にブームタウンと言うべき状態で、不動産開発が活発に行われ、全ての資産は値上がりし、かつての日本の80年代を彷彿とするような状況だったように思われます。それに乗ったのが著者で、やり手の妻と共に開発計画を主導して莫大な利益を産むわけです。

 

それにしても中国でのビジネスは全てが政治的で、官僚による不正、蓄財のネタにならないことはないと言えますね。分前を上手に分配しないと何もできない。共産主義とは名ばかりで、共産党を富ませるためだけのシステムです。そのために人民の権利を制限し、権力を振りかざすのです。よく腐敗撲滅なんってやってますけど、そんなのポーズでそもそもが腐敗しないと何にも動かない社会システムとなっているわけなんですよ。

 

後半では繁栄の波が終わった後の、宴の後処理の話が展開します。中国はよく競争社会という話を聞きますが、勉強して有能な官僚となっても、出世競争、派閥抗争、常に戦い止まず、心の平穏は訪れない状態がずっと続くわけです。今の日本人なら間違いなくすぐ病んでしまう状況ですね。そうして勝ち残ったとしても結局勝ち残るのは一人だけ。それ以外は粛清されるのです。その粛清も良くて終身刑、悪ければ死刑と激烈です。たとえ多少優秀でも13億の人口の中では塵にも等しい、皇帝のみが存在を許される世界なのです。

 

最終的に著者の奥さんだった人も捕まり、連絡すら取れない状態に陥っているとか。著者は運良く子供の教育のために、ロンドンにいて助かりましたが、最近外国にいても収容するような法律が出てきたとかで、落ち着けない状況ではあります。後書きにも書いてましたが、本書を出版するには勇気が必要だったと。そりゃそうですよね、しかも出版間近になって、連絡取れなかった奥さんから、出版しないように懇願する連絡が来たとか。映画みたいな本当にある話です。

 

本書を読んでいると、つくづく日本に産まれて良かったなと思います。よく中国べったりな左翼の方々が日本政府や社会を批判するところを見ますが、全員中国に送り込んであげたくなります。その言論の自由を担保出来ているのはなぜなのかと問いたいです。著者が言うように人間で得られる最も重要なものは富でも権力でもなく、基本的人権の尊重なのですから。