- 作者: 島崎藤村
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/07/17
- メディア: 文庫
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なんだか重く暗そうな内容じゃないかと、そう思ってました。文学って匂いが取っ付き難さを増加させてました。でも読んでみると、とても豊かな世界が広がっているのです。
主人公は木曾の街道の宿場で本陣・庄屋・問屋を勤める家の跡継ぎとして生を受けます。当然江戸時代ですから、自分がそれを継いでいくのは当然の勤めだと考えています。この身分制度から来る流れに対して、思想として主人公が好んで身に付けてきたのが、平田派から来る国学の思想です。時は幕末、尊王攘夷の源流の一つでもあるこの思想が、主人公を尊王攘夷運動への熱意として駆り立てていきます。しかし、先祖代々の家業が自分を縛りつけ、葛藤します。
我々がよく読む歴史というのは、為政者から見た歴史の流れであって、民衆の立場から記した歴史というのはまた違ったものですね。特に江戸時代というのは国学を筆頭に様々な思想が産まれ、それが大政奉還へと突き進んで行く訳です。単に黒船が来たからだけではなく、民衆のレベルから、国体のあるべき姿を求める運動が脈々とあった訳です。これこそが革命と呼べるのではないかと思いました。
それから、維新の流れが年を追って描かれています。なんだか普通の歴史書だと、イベントごとに描かれているので、それに辿り着く流れが見えないこともあるのですが、民衆の普通の生活から記された本書は日々の生活がベースなのでテンポが狂いません。一番なるほどと思ったのは尊王攘夷運動が終わったポイントが明確に記されているところです。これは禁門の変のことなのですが、この時点で長州や水戸の有力な指導者が全て歴史から去っていき、これを期に開国への流れと言うものが出来上がってきます。このような考えを書いていた本は自分が覚えている限り、なかったと思うんですね。なにせ、黒船から明治維新まで十数年あった訳です。その流れの変化をきちん、きちんと記されている点はなかなか見過ごせないです。
本書は著者島崎藤村の父がモデルとのことです。あの時代の風習風俗や生活観などが描き出され、とても鮮やかに情景として浮かんできて歴史好きとしてはとても楽しいです。最近はなんだか、こういうディティールの方が興味が湧いてきたりします。
なかなか、思った以上に楽しめる本でした。第一部は大政奉還まで。これから第二部。どのような展開が待っているのでしょうか。